予備校講師「このホームレスみたいになりたくなかったらしっかり勉強するんだぞ!」

コメント

― 予備校 ―

講師「今日はなにを食べたんです?」

ホームレス「うへへ……ゴミ箱からあさったコンビニ弁当……」

講師「なんという惨めさだ……」

講師「いいか! このホームレスみたくなりたくなかったらしっかり勉強するんだぞ!」

講師「しっかり勉強して、いい大学に入れないと、こうなってしまうんだぞ!」

講師「それが嫌なら、遊ばず怠けず計画的に勉強して、志望大合格をもぎ取るんだ!」

ホームレス「へっへっへ……」

ザワザワ…

 

マジでこういうやる気の出し方してたわ俺
ニコニコのニート配信者の恥辱的動画が有り触れてたからこうはならんと頑張った

 

講師「ほら、1000円だ」

ホームレス「毎度」

講師「これをやると、どんなにたるんでる生徒も一発で気を引き締める。いつも助かるよ」

講師「しかしあんた、よくこんな仕事を引き受けてくれたもんだ」

講師「ホームレスってのは、あれで案外プライドが高いもんだと思ってたが」

ホームレス「生徒たちを勉強させたいっていう、お前さんの熱意に動かされただけさ」

講師「熱意か。そんな上等なもんが俺にあるかな」

講師「俺にあるのは、とにかく生徒の成績を上げて、志望大学に受からせることだけだ」

 

同僚「……おい、また授業中にホームレスを反面教師に使ったんだって?」

講師「それがなにか?」

同僚「いい加減にしろよ。今に問題になるぞ」

講師「問題? 問題どころか俺は成果を上げてるつもりだがな」

講師「現に俺が受け持った生徒は、大手予備校の模試でも上位を取ってる。第一志望合格まっしぐらだ」

同僚「そうじゃなくて、もしホームレスを見下すような大人になったら……」

講師「そんなことは俺の知ったことじゃない。親や学校の仕事だろ」

講師「俺たちがやるべきことは、生徒をしっかり勉強させ、志望大に受からせることだ。違うか?」

講師「そのためなら、ホームレスだろうがなんだろうが利用してやるよ」

同僚「くっ……!」

 

同僚「まるで志望大学受からせるマシーンだ……。人間性ってもんがないのか……」

ヒソヒソ… ヒソヒソ…



講師(……なんとでもいえ。無能ども)

講師(なんといわれようと、俺は俺のやり方を貫くだけだ)

 

― 予備校 ―

講師「では、今日の授業はここまで! しっかり復習してくるように!」



ワイワイ… ガヤガヤ…

眼鏡「…………」



講師(このクラスも……たるみが出てくる頃だな。緊張感がなくなってきてる)

講師(そろそろいつものアレをやるか)

 

― 段ボールハウス ―

講師「よう」

ホームレス「おお、お前さんか」

講師「今夜、また頼むよ。俺の授業に顔出してくれ」

ホームレス「ほいよ!」

ホームレス「酒臭い方が説得力増すよな? ってわけで飲んでいくわ」グビグビ

講師「ごもっとも」

 

― 予備校 ―

講師「いいか、みんな! 勉強しないとこのホームレスみたいになっちまうぞ!」

ホームレス「ウ~イ……」ヒック

講師「なりたくなかったら、しっかり勉強して第一志望に入るんだ!」

ザワザワ…

講師(よし……今日も上手くいった。みんな勉強しなきゃってツラになってやがる)



眼鏡「…………」



ホームレス(……む)

 

講師「今日も助かったよ。こりゃ今度の全国模試も期待できる」

ホームレス「……あのさ」

講師「ん?」

ホームレス「教室の隅に座ってた眼鏡かけた生徒いただろ」

講師「ああ、あいつか。あいつは成績優秀だから、きっといい大学入れるだろ」

ホームレス「彼……いじめを受けてるぞ。おそらく自分の通ってる高校で」

講師「へ?」

ホームレス「なんとか助けてやれないもんかな。お前さんの手で」

ホームレス「いや……助けなくてもいい。あの子を励ましてやってくれよ」

講師「何を言い出すんだ、いきなり!」

 

このホームレス只者じゃないな

 

講師「いじめを受けてるかどうかも分からないのに、励ますなんてできるかよ!」

ホームレス「いや……俺には分かるんだよ」

講師「なんで分かるんだよ! エスパーかなんかかお前は!」

ホームレス「とにかく……俺には分かるんだ」

講師「なんだそりゃ……! 百歩譲って分かるのはいいとして、なんで俺がやんなきゃならない?」

講師「気づいたあんたがやりゃいいだろうが!」

ホームレス「こんな汚いおっさんの励ましなんて、心に響くわけないだろ?」

ホームレス「だが、お前さんは違う。この予備校の人気講師で、みんなから一目置かれている」

ホームレス「そんな人の言葉なら、ずいぶん変わってくるもんさ」

講師「だからってなんで俺が……!」

 

ホームレス「それに――」

講師「?」

ホームレス「もしかすると、今のままじゃあの子の成績……落ちるかもしれないぞ?」

講師「!」

ホームレス「杞憂で元々、ちょっと励ますだけで勉強に身が入るなら、儲けもんだろ?」

ホームレス「どんな手段を使っても生徒を志望大学に受からせるんじゃなかったのか?」

講師「……ちっ」

ホームレス「ま、気が向いたら頼むよ」

講師「誰がホームレスのいうことなんか……!」

 

― 予備校 ―

カリカリ… カリカリ…

講師「ここは色んな大学の入試で出るから、特に重要だ。絶対に落とさないように――」

講師「…………」チラッ



眼鏡「…………」



講師(たしかに元気がない……)

 

授業後――

講師「君、ちょっといいかな」

眼鏡「なんでしょう?」

講師「あっちの自習室……今誰もいないし、マンツーマンで話をしたい」

眼鏡「は、はい……」

講師(こんなことして何もなかったら、とんだお笑いだ……)

 

講師「突然なんだが……君、学校でいじめられたりしてないか?」

眼鏡「!」

講師「……どうかな?」

眼鏡「なぜそれを……!」

講師(当たってた! あのおっさん、節穴でもなかったみたいだな……)

講師「なぜ分かったかというと、なんとなくなんだけど……元気なさそうだったし……」

 

講師「結論からいおう」

講師「俺には君のいじめを解決することはできない」

講師「なぜなら、俺は勉強教えるしか能がないし、仮に俺がいじめをやってる連中を注意したところで」

講師「どうなるもんでもないと思うからだ。悪化させてしまうかもしれない」

眼鏡「…………」

講師「だが、俺は予備校の講師としてならいくらでも力になれる!」

眼鏡「!」

講師「学校なんざ行かずとも大学入る方法は知ってるし、そういう知り合いだっている」

講師「君が望むなら、もっと特別な形で勉強を教えてもいい」

講師「だからいじめを苦にしてバカな真似だけはするな!」

講師「俺は君が志望大学に行くためなら、全力を尽くすつもりだ!」

講師(こんなことしかいえない自分が情けない……)

 

眼鏡「……ありがとうございます!」

講師「へ?」

講師「いやしかし、なんの解決にもなってないアドバイスなのに……」

眼鏡「気づいてくれただけで、味方がいるって分かっただけで……だいぶ楽になれました」

眼鏡「先生ってもっと怖い人かと思ってましたけど、そんなことなかったんですね」

眼鏡「なにかあったら、相談させてもらうのでよろしくお願いします!」

講師「ああ、勉強頑張れよ!」

講師(こんなんで……よかったのかな?)

 

― 段ボールハウス ―

講師「よっ」

ホームレス「お前さんかい」

ホームレス「この前はすまなかったな。つい熱くなって、変なことを……」

講師「いや……あれから俺、眼鏡の彼に話しかけてみたんだ」

ホームレス「えっ?」

講師「そしたら、本当にいじめにあってて……俺とちょっと話しただけでだいぶ楽になったっていってた」

講師「こんなんでよかったのかな」

ホームレス「それでいいのさ」

 

ホームレス「いじめを受けてる子ってのは孤独だ。四面楚歌で、味方がいない」

ホームレス「だから……時として残る逃げ道である“自殺”っていう最悪の道に走ってしまう」

ホームレス「だけどほんの一人でも、自分のことを気にかけてくれる味方がいれば――」

ホームレス「ずいぶん心は楽になるってもんなのさ」

講師「そういうものかな。俺にはよく分からんが」

講師「まあこれで、彼が受験勉強に集中してくれるなら安いもんだ」

ホームレス「相変わらずだな、お前さんは」

講師「俺はあくまで予備校講師だからな」

 

講師「だけど、あんたの正体ははっきりさせておきたい」

講師「なぜ、あんたは彼がいじめられてるって分かったんだ? エスパーだとは言わせないぞ」

ホームレス「ふふ……それはねえ」

ホームレス「俺は……“元教師”だからさ」

講師「!」

ホームレス「これでもドラマに出てくるような人気教師だったんだぜ」

講師「そうか、だから……」

講師「だけど、なんでそんな人気教師がホームレスに……?」

ホームレス「…………」

 

教師か

 

ホームレス「……死なせた」

講師「え?」

ホームレス「死なせちまったのさ……」

講師「受け持ってた生徒さんをか? だから眼鏡の彼には同じことをさせまいと――」

ホームレス「…………」

講師「いや、よそう。すまなかったな、過去をほじくるようなことして」

講師「これからもよろしく頼むよ」

ホームレス「ああ、俺はいつでもお前さんの力になるぜえ」

 

― 予備校 ―

講師「いいか! このホームレスみたいになりたくなきゃ、しっかり勉強しろ!」

ホームレス「ただし、気楽なのは確かだからな。一度なってみるのもいいさ」

ホームレス「ま、病気になったら終わりだしなぁ、保険証もなんもないし」

アハハハハ… ワイワイ…



講師(呼びすぎてちょっと名物みたいになってきちゃったな……)

 

JK「…………」サッサッ

講師「そこ! 授業中に化粧なんかするんじゃない!」

JK「はぁ~い」

講師「まったく……」

ホームレス「あの子……」ボソッ

講師「ん?」

ホームレス「今日はずいぶん派手だ。授業の後、ちょっとつけた方がいいんじゃないか?」

講師「またあんたの勘か」

ホームレス「経験に基づいた、な」

 

授業後――

スタスタ…

講師「スマホいじりながら、どんどん繁華街の方に向かっていくな」

講師「デートか? ったく恋愛もいいが、できれば受験終わった後に……」

ホームレス「いや、これはきっと……」



JK「…………」スタスタ

 

中年「やぁ、待った?」

JK「いえ、今来たところです」

中年「じゃあ行こうか……」



講師「なにい!?」

ホームレス「やっぱりなぁ……」

講師「もしかして、もう深い関係になってるんじゃ……」

ホームレス「いや、きっとまだ初めてだろうな。女の子に緊張が見られる」

講師「ちっ、世話の焼ける!」

 

講師「ちょーっと待って下さい」

中年「ん?」

JK「あ、先生……! なんでここに……!?」

講師「その子、見ての通りまだ高校生なんでね。そういうことはしないで欲しいんです」

中年「なんだお前は!? 関係ないだろ!」

ホームレス「うへへへへ……」

中年「ひっ!?」

ホームレス「女子高生のソックスもいいが、俺の靴下はどうだい? 一週間は洗ってないけど」ムワァァァァ

中年「オエッ……」

中年「ひいいいいいいっ!」タタタタタッ

ホームレス「おっと一ヶ月は洗ってなかったか」

 

ソックスでセックス阻止ってか

 

JK「なんで余計なことしたのよ! 親でも教師でもないくせに!」

JK「私が大人相手に何しようが勝手じゃん!」

講師「ああ勝手だ。だが、俺は予備校講師として君を志望大に受からせる義務がある」

講師「大事な時期に、あんなおっさんとの付き合いに時間を取られちゃ困るんだよ」

講師「志望大に受かったら援助交際でもパパ活でもなんでもやればいい。分かったな?」

ホームレス(なんつう説得の仕方だ)

JK「うん……分かった」

講師「よし。なら、帰って今日の授業を復習して、さっさと寝ろ。睡眠不足は受験の大敵だからな」

 

JK「先生……」

講師「ん?」

JK「みんなやってるからって私もやろうとしたけど……本当は怖かったの。ありがとう」

講師「今度の模試、いい点取って返してくれ」

JK「うん!」

ホームレス「お前さんはとことん予備校講師だねえ」

講師「当然だろ」

 

……

― 予備校の外 ―

茶髪「ふぅ~、やっと終わったぜ」

茶髪「どれ勉強後の一服、っと……」シュボッ

講師「コラ、タバコなんか吸うんじゃない! まだ未成年だろう!」

茶髪「!」

 

茶髪「うるっせーな、あんたは教師じゃなくて予備校の講師だろ? ほっといてくれよ」

講師「そうはいかない」

講師「タバコのせいで脳の働きが悪くなって、受験に失敗されたら困るからな」

講師「吸うなら大学入ってから吸え。十本でも百本でも千本でも」

茶髪「タバコぐれえで受験に失敗するわけが……」

講師「それにな……」

講師「あまり若いうちからタバコ吸ってると、こうなるぞ」

ホームレス「うへへへ……」

茶髪「わっ、ホームレスのおっさんじゃねえか!」

 

ホームレス「ゲボォォォォォォ!!!」

茶髪「ゲ!?」

講師「どうやら肺に穴が開いたらしい。もう長くないな」

ホームレス「ゲボォォォォォォォォォ!!!」

講師「どうする?」

茶髪「や、やめる! やめます! タバコやめます!」



講師「やったな!」

ホームレス「ああ、こんだけ脅しとけばタバコやめるだろ」

講師「さて、ケチャップを掃除するか……」

ホームレス「うん……」

 

― 予備校 ―

ワイワイ…

講師「じゃ、授業を始めるぞー」

ピタッ

講師「……ん?」

講師「今日はいつもより出席人数が少ないな」

講師「……まぁいい。テキストの38ページから……」

 

別の日――

― 予備校 ―

講師「今日も少ないな……」

講師「まあ、仕方ない……。まずは……」

講師(一体どうしたっていうんだ?)

 

同僚「ああ、俺の受け持ちも出席率が悪くなってるな」

講師「やっぱり俺だけじゃないのか……」

講師「仮に予備校通うよりもっといい勉強法が見つかったってんなら、一向にかまわないが」

講師「単なるサボりだとしたら……」

同僚「授業料はもう貰ってんだし、あとサボるかどうかはもはや本人の問題だろ?」

同僚「サボる奴は何したってサボる。こっちが積極的にどうこうすることじゃねえよ」

講師「そういうわけにはいかないだろ! 俺たちには生徒を志望大に受からせる義務がある!」

講師「何とかしなきゃ……」ガタッ

スタスタ…

同僚「へえ、あいつにもあんな一面があったなんてな」

 

― 段ボールハウス ―

講師「……というわけなんだ」

講師「どうやらこの現象、うちの予備校以外でも起こってるみたいで」

講師「連絡できる家にはしてみたり、色々調べたんだけど、どうもはっきりした原因が分からなくて」

ホームレス「ふうむ、集団予備校サボり事件ってとこか」

講師「もし、何か心当たりがあったら、教えてもらえないか?」

ホームレス「分かった、ホームレス仲間にも頼んで探ってみる」

ホームレス「俺たちはこの町の裏事情に関しちゃ、警察よりも詳しいからよ!」

講師「頼む!」

 

おっさん頼もしい

 

三日後――

講師(今日も出席率はイマイチだった……)

ホームレス「お待たせ」

講師「あっ……どうだった?」

ホームレス「話は見えてきた。ここじゃなんだし、公園のベンチで話そうや」

講師「だったら缶コーヒーでも飲みながら話そう。買ってくるよ」

ホームレス「お、わりぃな!」

 

― 公園 ―

講師「……楽に志望大学に入れる会?」

ホームレス「ああ、“入会すれば勉強しなくても志望大に行ける!”なぁんて謳ってるんだと」

ホームレス「そんなのがここらにできて、受験に不安を抱える高校生をだまくらかしてるって噂だ」

ホームレス「会の連中がどこにいるとか、そこまでは分からなかったが……」

ホームレス「入会した連中もきっと巧妙に口止めされてるんじゃねえか」

ホームレス「会のことが大っぴらになったらこの話がなくなる、とか……」

講師「…………」

 

講師「ふざけるなッ!!!」ガンッ

ホームレス「!」ビクッ

講師「勉強しなくても志望大学に入れるだぁ~? 本当だとしても、どうせまともな方法じゃないんだろ?」

講師「それってようするに、お前じゃまともにやっても受からないっていってるようなもんじゃねえか」

講師「ふざけんじゃねえッ!!!」

講師「誰がそんなバカな会を作りやがったんだァァァッ!!!」

講師「はぁ、はぁ、はぁ……」

ヒソヒソ… ヒソヒソ…

講師「……あ」

ホームレス「…………」

 

講師「ごめん、つい声を荒げた……」

ホームレス「いや……」

講師「ちょっと……話をしたくなった。聞いてもらえるかな」

ホームレス「こちとらホームレス、暇ならいくらでもあるぜ」

講師「俺はかつて、今勤めてるとことはまた別の予備校に勤めてた」

講師「そこは一人の講師が授業の他に、何人か個別に受験について面倒見るシステムになってて」

講師「俺はある女の子を受け持ってた……」

ホームレス「…………」

 

講師「その女の子の第一志望はA大学、第二志望にしてたのはB大学だった」

講師「ただ、俺の目から見て、彼女がA大に受かる確率は五分五分というところだった」

講師「ある日、進路についての面談で彼女は――」


女生徒『やはりA大学に絞って勉強を進めたいと思ってます!』


講師「だが、俺はそれに反対だった」

講師「A大とB大じゃ試験の傾向が違いすぎたし、俺もできれば現役で受からせてやりたいって思いがあった」

講師「それに彼女がB大に現役合格できれば、俺の評価も上がるという欲もあった」

講師「B大も十分レベルの高い大学だったからな」

講師「だから……」


講師『危険は冒さない方がいい。五分五分のA大より、B大にすべきだ』

 

講師「それからだ。彼女が狂ったように常軌を逸した猛勉強を始めたのは」

講師「俺の言葉が引き金になったのは明らかだった」

講師「あんたも元教師なら、ただガムシャラなだけの勉強じゃ体壊すだけで逆効果だってのは分かるだろう。そして――」

講師「彼女は死んだ。傍から見ると、あまりにもつまらない事故で」

ホームレス「…………」

講師「誰も俺を責めなかった。責めてくれなかった」

講師「予備校は当然として、ご両親にも会いに行ったが、娘さんの死をきっかけに離婚してて会えずじまい」

講師「結局俺はその予備校を辞め……今に至っている」

講師「そして、今でも思うんだ」

 

講師「もし、あの時俺が……A大を受けよう、俺が第一志望に受からせる、と言い切ることができてたなら」

講師「彼女は……死なずに済んだんじゃないかって。たとえA大に受からなかったとしても」

講師「受験ってのは、大人になってから振り返れば人生の一通過点に過ぎないけど」

講師「当人にとっては人生の全てを賭けた一大イベントなんだ……」

講師「それこそ、気に病んだり、志望大に落ちて死を選んでしまう子も出るような……」

講師「俺はしょせん、彼女の親身になってあげられてなかったんだ……」

ホームレス「だから今のお前さんは……志望大学に絶対受からせるという講師になったわけだ」

講師「……そうだ」

 

ホームレス「そんなお前さんなら許せるわけがないよな……こんな会」

講師「受験生を舐めてる……許せるわけがない」

ホームレス「よし決まりだ! お前さんのポリシーのためにも、亡くなったその子のためにも」

ホームレス「楽に志望大学に入れる会とやらをブッ潰そう!」

講師「ああ!」

 

― 予備校 ―

講師(引き続き、ホームレスのおっさんには調査してもらってるがあまり進展はない……)

講師(あの格好で繁華街うろついてると、職質食らったりして苦労してるみたいだ)

講師(なにかいい方法は……)

眼鏡「先生」

講師「ん?」

眼鏡「ボーっとして、どうかしたんですか?」

講師「あ、いや……」

眼鏡「あれから僕、どうにかいじめに立ち向かってるんです。これも先生のおかげです」

眼鏡「先生も何かあるなら、僕に相談して下さい!」

講師「う、うーん……実は……」

 

見てるぞ見てる

 

眼鏡「そんな会が……?」

講師「ああ、まあ君みたいな順調に成績伸ばしてる子には無縁な会だ」

講師「おそらく、受験勉強に悩んでる子をターゲットにして声をかけてるんだろうが……」

眼鏡「だったらその役を僕がやりますよ!」

講師「え!?」

眼鏡「受験について悩むふりをして、この近辺をうろつけばいいんですよね?」

講師「バ、バカいえ……生徒にそんなこと――」

JK「あ、私もやりたーい!」

講師「な!?」

 

講師「なにいってんだ、二人とも! 勉強があるだろうが!」

講師「それにもしものことがあったらどうする! 危険すぎる!」

JK「だけど先生、今のままじゃ八方ふさがりでしょ?」

眼鏡「そうですよ。それにこの件をどうにかしないと、先生も授業に集中できないでしょう?」

眼鏡「そしたら困るのは僕達ですから。集中に欠けた授業なんて聞きたくもないですし」

講師「ぐ……!(言い返せない)」

講師「分かった……では勉強に支障がでない程度に協力をお願いする。よろしく頼む」

眼鏡「はいっ!」

JK「あ、茶髪君もやりたいって!」

茶髪「なんで!?」

JK「興味ありそうに、聞き耳立ててたじゃん」

茶髪「うぐぐ……分かったよ、俺もやるよ」

 

コメント

「受験勉強」の関連記事

「予備校・塾」の関連記事