予備校講師「このホームレスみたいになりたくなかったらしっかり勉強するんだぞ!」

コメント

期待

 

最後までやり切ってくれ

 

そして――

眼鏡「あぁ~! またD判定だ! こんなんじゃ志望大に受かりっこない!」

眼鏡「くそっ! くそっ! くそっ!」グシャグシャッ

眼鏡(……って、ちょっとオーバーだったかな?)

眼鏡「ふぅ~……今日は帰るか」

白スーツ「君」スッ

眼鏡「なんですか?」

白スーツ「受験勉強……大変そうだね。よかったら耳よりの話があるんだけど……」

眼鏡(まさか、こいつが“会”の……!?)

 

他の二人も――

JK「あーあ、もう勉強なんかやってらんない!」

グラサン「Yo! Yo! 君、ちょっと俺っちの愉快なハナシ聞く気なぁ~い?」

JK「?」

グラサン「受験勉強なんかしなくてもいいっつー最高にハッピーな話なんだけどさ!」



茶髪「誰だよあんた?」

中年女「あなた、勉強嫌いそうね。ものすごく大きい独り言だったもの」

茶髪「嫌いどころか大嫌いだよ!」

中年女「だけどそんなあなたでも、一流大学に入れる方法があるのよぉ~」

 

……

― カフェ ―

眼鏡「……というわけです」

講師「で、怪しいビルに案内されたと?」

眼鏡「そうなんです」

JK「そしたら後はすごかったわよ~」

JK「会の会長とかいう奴が、私たちに向けてペラペラ喋りまくり!」

茶髪「受験勉強なんか下らんとか、こんな制度で君たちの実力は測れない、青春の無駄遣い、とか」

茶髪「ほとんど高校生だったけど、中には浪人生ぽい奴も混ざってたぜ」

眼鏡「オトリで行ったにもかかわらず、ちょっと惹かれちゃうぐらいでしたね」

JK「うん、もし悩んでる時にあんなに“勉強する必要ない!”って言われたら引っかかっちゃうかも」

講師「…………」

 

講師「三人とも、ありがとう。この礼は必ずする」

眼鏡「あの、これからどうするつもりですか? よかったら僕たちも……」

講師「いや……これ以上はダメだ。三人とも勉強に専念しろ」

眼鏡「う……」

JK「分かったわよ……」

茶髪「しゃあねえか」

講師「ここからは……俺“たち”の仕事だ」

眼鏡「分かりました。先生こそ、どうか無茶しないように!」

 

見てるぞ

 

― 段ボールハウス ―

ホームレス「あの子たち、よくやってくれたじゃねえか」

講師「ああ、本当に感謝してる」

ホームレス「で、どうすんだそいつら? 警察に垂れこむのか?」

講師「いきなり警察がどかどか介入する事態になったら、大騒ぎになって受験生にも傷が残る」

講師「それになにより、俺の気が済まない」

ホームレス「ってことは……」

講師「乗り込む!」

ホームレス「へへ、そうこなくっちゃな。で、いつやる?」

講師「今だろ!!!」

 

― ビル ―

ホームレス「ぱっと見、なんてことのないビルだな」

ホームレス「ここに夜な夜な、受験に不安を抱える受験生が集められてるわけか……」

ホームレス「で、言葉巧みに洗脳みたいなことを……」

講師「行くぞ」

ホームレス「おう!」

 

会長「受験勉強なんてはっきりいって時間の無駄! ナンセンス!」

会長「あんなペーパーテストで一体何が測れると思いますか?」

会長「微分積分ができたところで、古い歴史を覚えたところで、いったいなんの役に立つんです?」

会長「生きていく上で、知識なんて一般常識があれば十分なんです! 分かりますか、皆さん?」

「はいっ!」 「はいっ!」 「はいっ!」

会長「しかし、今の世の中、いい大学に行かねばなかなか優良な進路にありつけないのは事実」

会長「そこは認めなければなりません。綺麗事ばかりいう私ではございません」

会長「ですが、いい大学に行くためにわざわざ猛勉強するなど愚か者のやること!」

会長「各大学に強力なコネクションを持つ私が、あなたがたを必ず入学させてみせます!」

 

会長「ただし、これには多少のお金が必要になります。仕方ないことです」

会長「一人頭10万、君たちぐらいの年齢ならなんとかこっそり用意できる額でしょう」

会長「これをきっちり用意して頂ければ、必ずやどんな大学にも合格させてみせます!」

会長「払った日からは遊び放題! 豊かな青春時代を築けるのです!」

会長「青春を大いに楽しんで、立派な社会人になりましょう!」

「よ、よし……!」

「親の財布からなんとか……」

「貯金全部おろせば……」




講師「――なぁんて話があると思うか?」

 

ザワザワ…

会長「だ、誰だ、君は?」

講師「ちょっと失礼、特別授業を始めさせてもらう」ズカズカ

会長「お、おいっ!」

「誰だあれ?」 「あっ、俺が通ってた予備校の……!」 「何するつもりだ?」

講師「ここに集まってるのはだいたいが高校生、浪人生も中にはいると聞く」

講師「多分みんな……受験勉強が嫌になって、こんなところに来ちゃったんだと思う」

会長「おいっ! こんなところとは失敬だぞ!」

講師「だが、聞いてくれ」

ザワザワ…

 

ざわっ

 

講師「たしかに受験勉強ってのは大変だ」

講師「どんなに頑張ったって当日体調崩して、全てがパーになることだってある」

講師「もしもっとちゃんと人の力を測れるシステムがあるなら、そっちにした方がいいと思うくらいだ」

講師「だが、俺は受験勉強が無駄だとは思わない」

講師「机に向かい、ひたすらに暗記し、試験の傾向を研究し、悩み苦しみ、一つの目的にまい進する」

講師「これらがなんの糧にもならないなんて絶対思わない」

講師「それに、仮にこいつのいうことが本当だったとして、こいつに10万払って楽にいい大学入って」

講師「君たちは何を得られる?」

講師「学歴か? そうじゃない。やましい手段で入学しましたって事実だけだ」

講師「それはきっといつまでもいつまでも君たちの心の中に残り、君らを苦しめる」

講師「フェアに戦えば必ず幸せになれるほど人生は甘くないが」

講師「汚い手を使った奴はやっぱりどこかしらで不幸を背負う、これが俺の持論だ」

 

熱いな

 

講師「みんな、どうか目を覚まして欲しい」

講師「こんな奴の口車に乗せられず、ちゃんと現実を見て欲しい」

講師「俺はこれでも予備校講師だ。勉強に関してならいつでも相談に乗れる」

講師「ここに番号も書いといてやる。イタ電上等」カリカリッ

講師「だから……頼む!」

講師「受験から……逃げないでくれ。どうか最後まで自分の力で戦って欲しい!」



シーン…

 

会長「さっきから聞いてれば、好き勝手いいやがって……人を詐欺師みてえに……」ガシッ

講師「!」

会長「おいみんな! こんな奴のいうことは無視しろ!」

会長「私のいうこと聞いて、10万払やいいんだよ! 分かってんだろ!? 楽したいだろ!?」

会長「お前らあんなに勉強したくねえ受験したくねえって言ってたじゃねえか!」

シーン…

会長「くっ……!」

会長「せっかく……せっかく、何度もこんな会を開いて、ようやく金巻き上げられるとこまで来たのに」

会長「おい、お前ら出てこい! こいつ叩きのめすぞ!」

「へっへっへ……」ムワァァァァァ

会長「うっ!?」

 

ホームレス「お仲間はみんな逃げちまったぜ」ムワァァァァァ

会長「なんだお前!?」

ホームレス「通りすがりの……ホームレスってとこかな。うへへへへ……」

会長「えええ……!?」

ホームレス「脱ぎたての靴下……嗅ぐ? 一ヶ月は洗ってねえけど」ムワァ…

会長「うわっ、くっさ!」

ホームレス「ほれプレゼント」パサッ

会長「オエエエエエエエエエエエッ!!!」

ホームレス「おっと、三ヶ月だったっけ」

 

ホームレス「受験生のみんな、楽することなんか考えてねえでちゃんと勉強しねえと……」

ホームレス「俺みたいになっちゃうぞぉ~?」

「よ、予備校行きます!」 「目が覚めました!」 「赤本買いに行こっと!」

バタバタバタ… ドタバタドタバタ…

シーン…

講師「さっすが……一瞬で目を覚まさせた」

ホームレス「いやいや、お前さんの特別授業もなかなか熱かったぜ」

講師「やめてくれ、恥ずかしい」

 

……

― 段ボールハウス ―

ホームレス「やっぱりあいつらは詐欺師だったみてえだ」

ホームレス「受験生騙して、小金をむしり取ろうって算段だったらしい」

講師「そりゃそうだ。あんな上手い話あるわけない」

ホームレス「だけどコロッと騙されちまう。あいつら図体はでかいが、中身はまだまだ子供ってことだな」

ホームレス「これでお前さんも少しは気が楽になったんじゃないか?」

講師「いや、まだまだ……亡くなったあの子への償いは終わらないよ」

 

ホームレス「もう……いいんだ」

講師「?」

ホームレス「あの子はお前さんを恨んじゃいない」

ホームレス「自分の意志で勉強して、死んだんだ。お前さんが背負うことじゃない」

講師「なにいってんだ、突然?」

ホームレス「俺はお前さんの教え子だった子を知ってる」

講師「は? 知ってるってどういう……」

ホームレス「俺はあの子の父親だ」

講師「…………!」

 

…………………!!!

 

ホームレス「人気教師だった俺は、灯台下暗し、実の我が子のことなんかちっとも見ちゃいなかった」

ホームレス「妻から“最近あの子が勉強しすぎなの”と相談されても耳も貸さなかった」

ホームレス「まともに顔を見たのは、それこそあの子が死んでからだった」

ホームレス「遺体を見た時、“こんなに大きくなってたんだ”って思ってしまったくらいだ」

ホームレス「あの子を死なせたのは……俺なんだ」

ホームレス「妻から愛想尽かされて、ここまで落ちぶれるのも当然の、最低の男だ……」

講師「もしかして、俺と出会ったのも偶然じゃ……」

ホームレス「ああ、偶然じゃない」

ホームレス「娘の日記には『予備校の○○先生にA大は難しいと言われたから頑張らなきゃ』と書かれてた」

ホームレス「娘を猛勉強させたきっかけが、お前さんだってことは知ってた」

 

講師「それで、俺に復讐するために――」

ホームレス「そういう念がなかったとはいえねえが、とにかく俺はお前さんという人間を見たかった」

ホームレス「それで下らない人間だと思ったら、もしかしたら俺の逆恨みに火がついたかもしれねえ」

ホームレス「だが、俺が見たお前さんは……もがき苦しんでた」

ホームレス「志望大学に絶対受からせてやるっていう、鬼講師と化してた」

ホームレス「娘のことが原因だってのは明らかだった」

ホームレス「だから俺は……何とかしてお前さんの力になってやりたいと思ったんだ……」

講師「くっ……!」

 

おっさん…

 

ホームレス「もう……十分だ」

ホームレス「娘のために君がこれ以上苦しむことはない。娘も天国で悲しむ」

ホームレス「ありがとう……」

講師「……はい……!」



…………

……

 

― 予備校 ―

ワイワイ… ガヤガヤ…

講師「いよいよ本格的に受験シーズンだ! フンドシ締めて勉強しろ!」

講師「ただし無茶な勉強は絶対しないように! 睡眠時間削ったってパフォーマンスが落ちるだけだ!」

眼鏡「はいっ!」

JK「はーい!」

茶髪「おっす!」

講師「よし、みんないい返事だ! じゃあ今日はテキストの……」

 

……

― 墓地 ―

講師「……ありがとうございます、お墓参りをさせてくれて」

ホームレス「いや、こっちこそありがとう」

講師「ところで俺、今資金を貯めてて、いずれ独立して塾をやろうかなって考えてるんです」

ホームレス「ほう、いいじゃないか」

講師「そしたら……俺を手伝ってくれませんか?」

講師「名教師だったあなたの力を……ぜひお借りしたい」

ホームレス「…………」

 

ホームレス「すぐに返事はできない。考えさせてもらうよ」

講師「よろしくお願いします」

ホームレス「だが、もし俺がお前さんの塾に入ったら……そうだなあ」

講師「?」

ホームレス「この講師みたいになりたかったらしっかり勉強するんだぞ、と生徒に言ってやろうかな」ニヤッ

講師「や、やめて下さいよ!」

ハッハッハ……







― おわり ―

 

うーん…
15点

 

うーん………
15点(15点満点中)

 


講師とホームレスいいコンビだった

 

泣いた

 

いいオチだった乙

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